仲卸業者が減ると、市場の未来はどう変わるのか
東京都中央卸売市場の資料をもとに、魚市場だけでなく青果、花き、食肉でも進む仲卸業者数の減少を読み解き、市場が次に残すべき機能を考えます。
東京都中央卸売市場の資料をもとに、魚市場だけでなく青果、花き、食肉でも進む仲卸業者数の減少を読み解き、市場が次に残すべき機能を考えます。
市場の将来を考えるとき、施設の老朽化やデジタル化の遅れだけを見ていると、いちばん大事な変化を見落とします。市場の中で品物を受け、選び、分け、届ける仲卸業者そのものが減っていることです。
東京都中央卸売市場の資料では、令和5年12月末時点の仲卸業者数は915業者でした。平成元年の1,794業者と比べると879業者少なく、令和5年の水準は平成元年の51.0%にあたります。
これは魚市場だけの話ではありません。水産物は1,236から529へ、青果物は502から319へ、食肉は50から24へ減っています。花きは市場整備の経緯が異なるため平成元年比では増えていますが、北足立市場の戦略資料では、花き部でも取扱高や売買参加者の減少が課題として示されています。
仲卸業者が減ると、単に店の数が減るだけではありません。市場の中で担われていた機能が薄くなります。
仲卸は、入ってきた品物をそのまま横流しする存在ではありません。品物を見て、取引先に合う大きさや状態を選び、必要な単位に分け、配送や納品の都合に合わせ、時には加工や下処理も含めて販売できる形にします。
この機能が減ると、産地と実需者の間にある「細かく合わせる力」が弱くなります。大量に同じ規格で動く取引は残りやすい一方で、小口、少量多品目、地域の飲食店や小売店に向けた調整が難しくなります。
令和5年末の資料では、水産物の仲卸業者数は529業者です。平成元年の1,236業者から707業者減り、令和5年は平成元年の42.8%にあたります。
市場別に見ると、豊洲は平成元年1,080から令和5年457、足立は92から41、大田は64から31です。どの市場も、平成元年の水準には戻っていません。
足立市場の経営戦略では、近隣の小売店など買出人の減少により、取扱数量が直近10年で概ね半減したと整理されています。ここで起きているのは、水産物そのものの消費減だけではありません。買いに来る実需者が減り、仲卸が支えていた小口流通の土台が細くなるという変化です。
青果物も同じ方向に動いています。令和5年末の資料では、青果物の仲卸業者数は319業者です。平成元年の502業者から183業者減り、令和5年は平成元年の63.5%にあたります。
北足立市場の基本戦略では、青果部の取扱量が10年前と比べ約32%減少し、最盛期の半分以下になっていると示されています。売買参加者は10年前に比べ約34%減少し、それに伴って仲卸業者も減少が進んでいると整理されています。
野菜や果物は日々の生活に近い品目です。それでも、産地の大型化、直送や直売所の増加、市場経由率の低下、買参人の減少が重なると、市場を通る量と市場内の担い手は細っていきます。
今回の資料を読むと、仲卸業者の減少は突然出てきた課題ではないことが分かります。
菊池良一氏の「東京都卸売市場整備計画についての考察」では、農林水産省の卸売市場整備基本方針と東京都の整備計画を追いながら、中央卸売市場、地方卸売市場、民営卸売市場の配置や統合が長く議論されてきたことが整理されています。
第1次から第3次までは、市場の配置や整備を積極的に進める考え方が目立ちます。一方、第4次では、既存中央卸売市場の整備と地方卸売市場の大型化を基本とし、経済や財政事情も見ながら進める方向へ変わっていきます。
つまり、市場の未来は「市場を増やす」話だけではなく、どこに機能を残し、どの市場を統合し、どの役割を維持するかという話でもありました。
仲卸業者数の減少を、単なる統計として眺めるだけでは現場の痛みが見えません。実務では、次のような形で影響が出ます。
足立市場の戦略では、実需者の減少をカバーし、新たな需要を取り込むため、取扱量だけでなく商品種類や質も充実させる方向が示されています。関連事業として缶詰、瓶詰、青果など水産物以外の商品も安定的に供給し、多様な食材が揃う市場として集客力を高めることも挙げられています。
これは、水産市場が水産物だけを見ていては厳しくなるという示唆でもあります。市場に来れば、必要な食材や情報がまとまって得られる。その価値を作り直す必要があります。
仲卸業者が減っているからといって、すぐに「会社数を元に戻す」ことだけを目標にするのは現実的ではありません。人口、消費、産地、物流、働き手、衛生管理、取引先の買い方が変わっているからです。
むしろ重要なのは、少なくなった担い手で市場機能をどう残すかです。
たとえば、水産では魚種、サイズ、鮮度、加工状態を取引先ごとに合わせる力が必要です。青果では、産地の大型化や商圏ニーズの変化を見ながら、品目と量を調整する力が必要です。花きでは、仏花や地域需要など、商圏に根ざした需要を読み取る力が必要です。
こうした力は、システムだけでは置き換えられません。しかし、記録しなければ次の人に渡せません。
仲卸業者がDXを進めるべき理由で書いたように、DXの目的は現場の人を置き換えることではありません。市場の人が持っている判断を、次の人も確認できる形にすることです。
仲卸が減る時代に市場機能を残すなら、まずは次の情報を会社の中に残す必要があります。
これは大きなシステム導入の前にできます。紙でもExcelでも構いません。まずは、頭の中にある判断を表に出すことです。
紙で届く仕入速報からDXの起点を作るにはで扱ったように、上流から来る情報を自社の品目名や単位へ変換する作業は、仲卸の知識そのものです。その知識を残さないまま人が減ると、同じ仕入データが来ても、会社の販売に使える形へ変えられなくなります。
もちろん、取扱量は重要です。市場に品物が集まらなければ、価格形成も、品揃えも、物流も弱くなります。
ただし、これからの市場を量だけで見ると、現場が守ってきた価値を取り落とします。足立市場の戦略が「取扱量だけに着目せず、商品種類・質等も充実させる」としているのは、この点で重要です。
市場の未来に残すべきものは、単なる箱数やトン数だけではありません。
品物を見る目。小口の注文に合わせる力。産地と実需者をつなぐ関係。単位や規格を読み替える知識。地域の飲食店や小売店が困ったときに頼れる場所であること。
仲卸業者数の減少は、市場が小さくなる話であると同時に、市場が何を残すべきかを選び直す話でもあります。
自社や自市場でこの問題を考えるなら、最初に見るべきなのは大きな戦略資料ではなく、現場の小さな変化です。
ここまで見えると、次にやるべきことは少し具体的になります。品目対応表を作る。取引先別の注意点を残す。仕入単位と販売単位の変換を整理する。問い合わせ対応を記録する。市場に来る理由を伝える発信を始める。
市場業務の標準化とはで整理している通り、標準化は現場判断をなくすことではありません。判断が必要な場所を明確にし、迷わなくてよい場所を増やすことです。
仲卸が減る時代の市場では、この考え方がより重要になります。市場の未来は、残った人が無理をして支えるだけでは続きません。残すべき判断を会社の資産に変え、少人数でも市場機能を維持できる形にしていく必要があります。
自社の品目、取引先、単位変換、引き継ぎのどこから整理すべきか迷う場合は、現状の流れを一緒に確認できます。お問い合わせから、課題整理としてご相談ください。