1匹で仕入れたタイは、1匹のまま売れるとは限らない
タイ1匹を半身、切り身、刺身用へ加工して販売する市場業務では、在庫管理は数量管理だけでは足りません。生鮮品特有の商品変化をどう考えるかを解説します。
タイ1匹を半身、切り身、刺身用へ加工して販売する市場業務では、在庫管理は数量管理だけでは足りません。生鮮品特有の商品変化をどう考えるかを解説します。
タイを1匹仕入れたからといって、そのタイが1匹のまま売れるとは限りません。
売れ行きによっては半身にする。切り身にする。市場開放日向けに刺身用へ加工する。仕入れた時点では一つの商品だったものが、時間の経過やお客様のニーズによって、別の商品へ変わっていきます。
市場業界の在庫管理が難しい理由の一つは、まさにここにあります。一般的な在庫管理では、仕入れた商品を在庫として持ち、そのまま販売する流れを前提にしやすい。けれども水産市場では、仕入れた商品と販売する商品が、同じ状態のまま存在し続けるとは限りません。市場向けの在庫管理では、「何個あるか」だけでなく、「今どの状態の商品がどれだけあるか」を追う必要があります。
以前の市場取引では、仕入れた商品を比較的そのまま販売できる場面が多くありました。
1箱仕入れて1箱売る。魚を1匹仕入れて1匹売る。こうした販売であれば、在庫管理はまだ分かりやすい構造になります。仕入数量と販売数量を対応させれば、残りも見えます。
ところが現在は、消費者や飲食店の買い方が変わっています。
一般消費者の中には、魚を丸ごと1匹買う人が少なくなっています。家庭で魚を捌けない、調理方法が分からない、大きすぎて使い切れない。こうした理由から、丸魚よりも、柵、刺身用、ぶつ切り、切り身のような加工済み商品が求められます。
飲食店側でも、必要な量だけ欲しい、下処理済みの方が使いやすい、仕込み時間を減らしたいというニーズがあります。つまり、仕入れた状態のまま置いておけば自然に売れるとは限らなくなっています。
タイを1匹仕入れた場合、理想としてはそのまま1匹で売り切りたいかもしれません。しかし、その日の売れ行きによっては売れ残ります。
生鮮品は時間との戦いです。今日仕入れた魚と、明日の魚では販売価値が違います。同じ魚であっても、鮮度が落ちれば価格を下げる必要が出ます。場合によっては、利益を大きく取ることよりも、売り切ること自体を優先しなければなりません。
このとき中卸は、商品をそのまま待たせるのではなく、売れる形に変える判断をします。丸魚では売れないなら半身にする。半身でも動きが悪ければ切り身にする。市場開放日向けに刺身用へ加工する。こうして、在庫は販売状況に合わせて変化していきます。
加工が入ると、在庫管理の考え方は一気に難しくなります。
タイ1匹を仕入れた時点では、在庫は「タイ1匹」です。ところが半身にすると、元のタイ1匹はそのままでは存在しません。さらに切り身や刺身用にすれば、販売する商品コードや単位も変わります。
システム上は、次のような処理が必要になります。
これは単なる在庫移動ではありません。商品変換、製造、加工に近い考え方です。
kgで仕入れて本数で売るから、魚市場の在庫管理は難しいでも整理したように、市場では仕入単位と販売単位がずれるだけでも在庫管理が難しくなります。加工販売では、単位だけでなく商品そのものが変わるため、さらに現場の判断を残す必要があります。
加工後の商品をまったく別の商品として登録するだけでは、元の仕入とのつながりが切れます。
タイ1匹から何パックの刺身用ができたのか。半身にした時点でどのくらい原価を載せたのか。売れ残りを値引き販売したとき、どの仕入ロットの損益に影響したのか。こうした情報が追えないと、在庫数は合っているように見えても、粗利やロスの確認が曖昧になります。
大切なのは、加工前の商品と加工後の商品を別物として扱いながらも、履歴としてつなげておくことです。
加工販売が難しいのは、ルールが固定ではないことです。
同じタイでも、ある日は1匹のまま売れるかもしれません。別の日は半身にするかもしれません。市場開放日には刺身用を多めに準備するかもしれません。お客様から「今日使う分だけ切ってほしい」と言われれば、その場で加工内容が変わることもあります。
加工パターンは、次のような要素で変わります。
つまり、加工は商品マスターに固定できる一つのルールではありません。現場で毎日判断される業務です。
市場では、定期的に一般開放日が行われることがあります。その日は、普段の飲食店や小売向けとは違い、一般消費者が市場へ来ます。
一般消費者は、魚を丸ごと1匹買うよりも、柵、刺身用、ぶつ切り、切り身のような商品を求めることが多くなります。そのため、開放日に向けて加工商品を準備する必要があります。
この準備も在庫管理の一部です。何を何個用意したのか。元の商品は何だったのか。売れ残った場合にどう値引きしたのか。ここまで追えなければ、次回の開放日に向けた判断材料が残りません。
一般的な在庫管理では、商品が倉庫に置かれていて、入庫と出庫で数量が増減するイメージを持ちやすいかもしれません。
市場の生鮮品では、それだけでは足りません。商品は倉庫に置かれたまま静止しているのではなく、時間とともに状態が変わっています。
丸魚、半身、切り身、刺身用、値引き販売。この変化は、単に表示名が変わっているだけではありません。
丸魚の在庫が減り、半身の在庫が増える。半身が切り身に変わる。刺身用として販売できる時間が短くなる。鮮度が落ちると販売単価が下がる。このように、数量、状態、価値が同時に動きます。
市場の商品名が統一されない理由と商品マスター設計の考え方で触れている通り、商品名や単位に多くの情報を詰め込みすぎると、あとから集計や確認が難しくなります。加工販売でも同じで、状態や加工履歴を商品名だけで表そうとすると、管理が複雑になります。
生鮮品では、利益最大化よりも売り切りを優先する場面があります。
これは現場の感覚だけで終わらせるにはもったいない情報です。どの状態で売れ残ったのか。どのタイミングで加工したのか。どの価格まで下げたのか。次回は仕入量を変えるべきか、早めに加工すべきか。
こうした判断が記録されていれば、次の仕入や販売準備に活かせます。逆に記録がなければ、毎回その場の経験に頼ることになります。
加工販売をシステムで扱うなら、少なくとも「元の商品」と「加工後の商品」をつなげる項目が必要です。
確認したい項目は、次のようなものです。
最初からすべてを厳密に管理する必要はありません。まずは、金額が大きい品目、売れ残りやすい品目、加工販売が多い品目から始めるのが現実的です。
よくある失敗は、加工を例外処理として扱うことです。
本来の在庫管理は丸魚だけで、加工した分は手書きメモや担当者の記憶で調整する。これでは、システム上の在庫と現場の実態が少しずつずれていきます。
市場業務では、加工は例外ではなく日常業務です。そのため、在庫管理の設計段階から、商品が変化する前提を入れておく必要があります。市場業務の標準化とはで整理しているように、標準化は現場判断を消すことではなく、判断が必要な場所を会社で確認できる形にすることです。
市場業界の在庫管理は、「何個あるか」を数えるだけでは足りません。
生鮮品は時間によって価値が変わり、売れ行きによって販売形態が変わり、加工によって別の商品になります。丸魚として仕入れたものが、半身、切り身、刺身用、値引き商品へ変化していく。この流れを追えなければ、一般的な在庫管理システムを入れても現場では使いにくくなります。
市場業界で本当に管理すべきなのは、在庫数量だけではありません。商品の状態変化です。
自社の商品で、どこまで加工履歴を残すべきか迷う場合は、まずよく加工する品目を一つ選び、仕入から販売までの状態変化を書き出すところから始められます。加工前後の商品、数量、単位、値引き判断を一緒に見れば、最初に整えるべき管理項目が見えてきます。お問い合わせから、現状の業務フロー整理としてご相談ください。
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