本文へ移動
いちばのみらい
市場DX

kgで仕入れて本数で売るから、魚市場の在庫管理は難しい

サンマはkgで届くのに本数で売る。箱、匹、柵、パックも混在する魚市場の在庫管理で、なぜ単位変換と現場知識が欠かせないのかを解説します。

約11分 いちばのみらい編集部

市場向けの在庫管理システムを考えるとき、避けて通れない問題があります。仕入れたときの単位と、販売するときの単位が一致しないことです。

一般的な小売業であれば、「10個仕入れて、10個販売する」という考え方で在庫を追いやすい場面があります。けれども水産市場では、10kgで仕入れた魚を本数で売る、箱で仕入れた魚をkgや匹で売る、kgで仕入れた魚を柵やパックに加工して売る、ということが普通に起きます。

この問題は、単なる単位変換の話ではありません。仕入データ、販売データ、在庫データの間に、現場の人が持っている判断や経験が入っているという話です。市場の在庫管理をシステム化するには、その判断をどう残し、どう確認できる形にするかが重要になります。

市場の在庫管理では仕入単位、販売単位、在庫単位がずれる

市場では仕入れた単位のまま売るとは限らない

市場の在庫管理が難しい理由は、仕入れ、販売、加工、在庫確認で見たい単位が変わることにあります。

仕入側ではkg、箱、ケースで情報が届く。販売側では本数、匹、kg、パックで注文を受ける。現場では「あと何本あるか」「何箱残っているか」「柵にした分はどれだけか」という見方をする。つまり、一つの商品でも、業務の場面ごとに意味のある単位が違います。

サンマはkgで仕入れて本数で売る

たとえばサンマを仕入れる場合を考えます。

大卸から届く仕入情報が、商品名はサンマ、仕入金額は15,000円、仕入重量は10kg、本数は100本だったとします。この場合、1本あたりの仕入原価は15,000円を100本で割った150円です。

ただし、現場ではお客様に「10kgのサンマ」として売るとは限りません。「サンマを2本ください」「5本ください」という注文になります。担当者も「あと何本残っているか」で会話します。

このとき、仕入データだけを見ると10kgです。しかし在庫管理上は100本として扱えなければ、販売後の残数が分かりません。50本売れたなら残りは50本です。システムが10kgだけを見ていると、現場の会話と在庫画面がずれていきます。

kg管理だけでは現場が見なくなる

「理論上はkg管理のままでよいのではないか」という考え方もあります。確かに、重量だけで売買する商品ならkg管理で足りる場合があります。

けれども、現場が本数で注文を受け、本数で残りを確認しているなら、在庫画面も本数で見られる必要があります。システムだけがkgで管理していると、担当者は頭の中で毎回換算しなければなりません。

その負担が積み重なると、現場はシステムを見なくなります。紙に書く、担当者に聞く、記憶で判断する。せっかく在庫管理システムを入れても、現場の業務単位と合っていなければ使われません。

単位変換は固定ルールだけでは足りない

単位変換というと、「10kg = 100本」というルールを登録すればよいように見えるかもしれません。けれども市場では、その変換が毎回同じとは限りません。

同じサンマでも、ある日は10kgで100本、別の日は90本、また別の日は110本ということがあります。魚の大きさ、入り数、仕入れたロットの状態によって、本数は変わります。

その日の仕入れごとに変換が決まる

この場合、必要なのは商品マスターに固定変換を持たせることではありません。その日の仕入明細ごとに、重量と本数の関係を記録することです。

商品としては同じサンマでも、仕入ロットごとに「10kg、100本」「10kg、90本」という実績が残る。販売時には、そのロットから何本出たのかを減らす。こうしてはじめて、原価と在庫が現場の実態に近づきます。

市場の商品名が統一されない理由と商品マスター設計の考え方でも触れている通り、市場のデータ設計では、商品名、サイズ、単位を一つの文字列に押し込めると後で苦しくなります。単位変換も同じで、商品名の中ではなく、仕入明細や変換実績として持つ必要があります。

原価計算にも影響する

単位変換は在庫数だけの問題ではありません。原価にも影響します。

サンマを15,000円で仕入れ、100本として売るなら1本150円です。もし実際には90本しかなかったなら、1本あたりの原価は約167円になります。販売単価を決めるとき、粗利を見るとき、請求内容を確認するとき、この差は無視できません。

kgで仕入れた情報を本数で売るなら、どの時点で何本として確定したのかを残す必要があります。ここが曖昧なままだと、在庫数だけでなく粗利も曖昧になります。

箱、kg、匹が混在する品目はさらに難しい

アジのような品目では、仕入単位と販売単位の関係がさらに複雑になります。

仕入れは1箱。販売は箱のままの場合もあれば、kgで売る場合も、1匹で売る場合もあります。つまり、同じ仕入から複数の販売単位が生まれます。

大卸ごとの慣習が残っている

さらに難しいのは、大卸ごとに昔からの運用があることです。

ある大卸では「このアジは1箱10kg」と決まっている。現場の人は当然のように「このアジは1箱10kgだよね」と判断している。ところが、その情報が仕入データに必ず書かれているとは限りません。

仕入情報だけを見ると「アジ 1箱」としか分からない。けれども現場は、過去の取引、箱の規格、担当者の経験から10kgとして扱っています。

ここで問題になるのは、システムが見ている情報と、現場の人が知っている情報が一致していないことです。データにはないが、業務には必要な知識がある。市場システムの難しさは、まさにここにあります。

仕入情報にない知識をどう残すか

「この大卸のアジは昔から1箱10kg」という情報は、ベテラン社員の頭の中にあることがあります。その人がいる間は、入力時に迷いません。けれども、その人が休む、異動する、退職するとなると、誰も判断できなくなります。

この問題は、在庫管理だけでなく、紙で届く仕入速報からDXの起点を作るにはで扱っている上流データ変換の問題ともつながります。大卸から届いた情報をそのまま入れるだけでは、仲卸側の販売や在庫に使えるデータにならないことがあるからです。

加工が入ると在庫は別の商品へ変わる

市場では、仕入れたものをそのまま売るだけではありません。加工による単位変換も起きます。

たとえばマグロを10kg仕入れたとします。7kgはそのままkg単位で販売し、残り3kgは柵にする。別のケースでは、パック商品に加工することもあります。

この場合、仕入時はkgで管理していた在庫が、販売時にはkg、柵、パックという別の単位になります。

加工前と加工後をつなげておく

加工が入る在庫管理では、「元の在庫が何で、加工後に何になったか」をつなげておく必要があります。

10kg仕入れたマグロのうち、3kgを柵にした。柵は何本できたのか。パックなら何パックできたのか。加工時にロスがあるなら、どのくらい発生したのか。ここを記録しないと、仕入原価、加工後在庫、販売後の粗利がつながりません。

システム上は、同じマグロでも「加工前のkg在庫」と「加工後の柵在庫」を分けて扱う必要があります。ただし、完全に別物として切り離すのではなく、元の仕入明細と加工実績を紐づけることが重要です。

人間が毎回やっている変換を整理する

市場では、こうした単位変換をシステムが自動で行っているとは限りません。

現場では、「このサンマは100本だな」「このアジは1箱10kgだな」「このマグロは柵にしたな」という判断を人が行っています。仕入データ、販売データ、在庫データの間に、人間による変換作業が入っています。

市場の単位変換で残したい確認項目

仲卸ごとにルールが違う

さらに、変換ルールは市場共通ではありません。同じ魚でも、A社はkg管理、B社は匹管理、C社は箱管理ということがあります。

これは間違いではありません。販売先、扱う数量、担当者の分業、加工の有無によって、使いやすい管理単位は変わります。だから、一般的な在庫管理システムの標準機能だけでは合わないことがあります。

市場向けのシステムでは、会社ごとの業務単位を前提にして、仕入単位、販売単位、加工単位、在庫単位を分けて持てる設計が必要です。

まずは判断を書き出す

「人間の判断はシステム化できない」と感じるかもしれません。確かに、いきなり全自動にするのは難しいでしょう。

けれども、最初にやるべきことは全自動化ではありません。現場の人がどのような判断をしているのかを書き出すことです。

  • どの品目で仕入単位と販売単位が違うか
  • どの大卸では箱あたり重量の前提があるか
  • どの品目は本数、匹数、kgのどれで在庫を見るか
  • どの加工でkgから柵やパックへ変わるか
  • 変換に迷ったとき、誰に確認しているか
  • 変換後の原価をどの単位で見るか

この整理ができると、属人化していた判断を、少しずつ会社のルールとして扱えるようになります。市場業務の標準化とはで整理している通り、標準化は現場判断をなくすことではありません。判断すべき場所を明確にし、迷わなくてよい場所を増やすことです。

市場向け在庫管理で持っておきたい項目

市場向けの在庫管理では、「商品」「数量」「単位」だけでは足りないことが多くあります。少なくとも、次のような項目を分けて持つと整理しやすくなります。

  1. 仕入時の商品名
  2. 自社で扱う商品名
  3. 仕入単位
  4. 仕入数量
  5. 仕入重量
  6. 本数、匹数、個数などの実数
  7. 販売単位
  8. 在庫確認で使う単位
  9. 加工後の商品単位
  10. 変換した日付と担当者
  11. 変換ルールの根拠
  12. 例外時の確認先

大切なのは、最初からすべての商品を完璧に整えることではありません。まずは、仕入額が大きい品目、販売頻度が高い品目、単位違いでミスが起きやすい品目から始めることです。

実績として残す単位と、目安として使う単位を分ける

単位変換には、実績として残すべきものと、目安として使うものがあります。

たとえば「この大卸のアジは1箱10kg」は、運用上の目安かもしれません。一方で、その日の仕入で実際に検品し、10kg、48匹と確認したなら、それは仕入明細に紐づく実績です。

目安は入力補助や初期値として使い、最終的な在庫や原価は実績で確定する。この分け方をしておくと、現場の経験を活かしながら、数字の根拠も残せます。

市場のDXは、現場知識を会社の資産にすることでもある

仕入単位と販売単位が一致しない問題は、市場の在庫管理を難しくしている大きな理由の一つです。

10kg仕入れて100本へ変換する。箱で仕入れてkgや匹で売る。kgで仕入れたマグロを柵やパックに加工する。そのたびに、現場の人は品物の状態、取引先、販売方法、昔からの運用を見ながら判断しています。

だから、市場向けの在庫管理システムは、単純な「入庫と出庫」だけでは足りません。仕入単位、販売単位、加工単位、在庫単位、そして現場知識を扱える必要があります。

市場のDXとは、紙をデジタルに置き換えることだけではありません。ベテランの頭の中にある判断基準を言語化し、データとして残し、誰でも確認できる状態にしていくことでもあります。

自社の商品で、どの単位変換から整理すべきか迷う場合は、仕入明細、販売時の呼び方、在庫確認の単位を一緒に見ながら、最初に整える品目を確認できます。お問い合わせから、課題整理としてご相談ください。

この記事について、現場の声をお寄せください

いちばのみらいは、市場に関わる方々の経験や問いから育てていくメディアです。記事への感想、取り上げてほしいテーマ、現場で感じていることがあればお知らせください。