市場の商品名が統一されない理由と商品マスター設計の考え方
大卸ごとに異なる商品名、産地、サイズ、単位をどう整理し、属人化しない商品マスターへ近づけるかを解説します。
大卸ごとに異なる商品名、産地、サイズ、単位をどう整理し、属人化しない商品マスターへ近づけるかを解説します。
市場業務でシステム化が進みにくい理由の一つに、商品名が統一されていない問題があります。
一般的な小売業や製造業では、JANコードや商品コードによって商品を一意に扱える場面が多くあります。けれども、水産市場の現場では、同じ魚であっても、大卸、産地、ブランド、サイズ、状態、単位、担当者の呼び方によって名称が変わります。
問題は、表記ゆれだけではありません。商品名の中に、本来は別々に管理すべき情報が詰め込まれていることです。商品マスターを整えるには、「商品名を一つに統一する」よりも先に、魚種、産地、サイズ、状態、ブランド、単位を分けて管理できる形にする必要があります。
市場の商品名は、最初から一つの基準で作られているわけではありません。大卸側の帳票、仲卸側の販売管理、取引先への呼び方、現場での確認しやすさが重なって決まります。
たとえば同じタイでも、大卸や帳票によって「タイ」「マダイ」「真鯛」と表記されることがあります。さらに、天然、養殖、活魚、締め、神経締めといった状態が付くと、名称の種類は一気に増えます。
大卸側には大卸側の品目名や単位のルールがあります。仲卸側では、その情報を自社の販売や在庫確認に使える形へ読み替えます。この読み替えの難しさは、紙で届く仕入速報からDXの起点を作るにはでも扱っている、上流データ変換の重要な論点です。
市場では、産地やブランドも商品価値の一部です。同じタイでも、明石、愛媛、鹿児島など産地によって取引上の意味が変わります。ブランド魚であれば、魚種としては同じでも、販売上は別の商品として扱いたい場面もあります。
そのため、「魚種だけをそろえればよい」と考えると現場に合いません。魚種は同じでも、産地、ブランド、状態、サイズが違えば、価格、売り先、在庫確認の方法が変わるからです。
サイズ表記も統一されていません。大、中、小、特大、1kg前後、1.2kgから1.5kg、3入り、5入りなど、さまざまな表現が使われます。
単位も同じです。kg、個、尾、引き、パック、箱、ケースが混在します。同じ魚でも、仕入先ではkg、販売先では尾数、社内の確認では箱数というように、場面によって見たい単位が変わることがあります。
ここを商品名だけで吸収しようとすると、「明石天然マダイ1.2kg前後3入り箱」のように名称が長くなり、あとから集計しにくくなります。
さらに複雑なのは、大卸から来た商品名を仲卸側でそのまま使っていないことです。多くの現場では、自社で分かりやすい名前、販売先に伝わりやすい名前、昔から使っている名前に変換して運用しています。
商品名を変換する理由は、単なる好みではありません。
つまり、商品名の変換には現場の知識が含まれています。問題は、その知識が変換辞書や対応表として残っていないことです。
一般的なシステム設計では、商品マスター、変換マスター、単位変換表のような形でルールを持たせます。しかし市場業務では、担当者が頭の中で「これはあの商品と同じ」「この場合は別扱い」と判断していることが少なくありません。
ベテラン社員がいる間は、それで回ります。けれども、その人が休む、異動する、退職するとなると、なぜその名称にしていたのか分からなくなります。ベテラン社員が退職する前にやるべきことで扱っている引き継ぎの問題は、商品名の変換にもそのまま当てはまります。
商品名のルールがないまま運用すると、商品マスターは少しずつ増えていきます。
たとえば、次のような名称が別々の商品として登録されることがあります。
現場では違いを理解していても、システム上は別商品として扱われます。ここから在庫、売上分析、粗利確認にズレが出ます。
本来は同じ魚として見たいものが、別の商品コードで管理されると、在庫が分かれて見えます。ある担当者は「真鯛」で入力し、別の担当者は「マダイ」で入力する。すると、実在庫は同じ場所にあるのに、システム上では別の商品として残ります。
在庫確認のたびに人が読み替える必要が出ると、システムの数字を信用しにくくなります。最終的には「システムを見るより、現場の人に聞いたほうが早い」という状態に戻ってしまいます。
商品マスターが増殖すると、売上分析も難しくなります。
タイ全体でどれだけ売れたのか。天然タイと養殖タイで粗利がどう違うのか。ブランド魚は利益につながっているのか。産地別に販売先の傾向があるのか。
これらを見たいとき、商品名がばらばらだと、毎回Excelで集計し直したり、担当者が手で分類したりする必要があります。分析のたびに人の判断が入るため、数字の再現性も落ちます。
商品マスターを整えるときに大切なのは、現場の呼び方を無理に消さないことです。必要なのは、呼び方を一つに固定することではなく、呼び方の裏側にある要素を分けることです。
最初に持つべき軸は魚種です。タイ、マグロ、ブリ、サバ、イカのように、集計や在庫確認の入口になる分類を決めます。
ただし、魚種だけでは足りません。魚種は共通軸であり、商品そのもののすべてではありません。産地、ブランド、状態、サイズ、単位を別項目として持つことで、現場の違いを残したまま集計できるようになります。
産地やブランドは、商品名の中に埋め込まず、別項目として管理します。たとえば、魚種は「マダイ」、産地は「明石」、状態は「天然」、ブランドは必要に応じて別項目にする、という形です。
こうしておくと、「マダイ全体」「明石産だけ」「天然だけ」「ブランド魚だけ」といった見方ができます。商品名だけで管理していると、この切り替えが難しくなります。
単位は特に注意が必要です。kg、尾、箱、ケース、パックを商品名に入れてしまうと、同じ魚でも単位ごとに商品が増えます。
仕入単位、販売単位、在庫単位を分けて持ち、必要であれば変換ルールを残します。たとえば、仕入はkg、販売は尾、在庫確認は箱というように、場面ごとの単位を明確にします。
この整理ができると、商品名は短くなり、確認すべき項目が見えやすくなります。
いきなり全商品をきれいに整える必要はありません。むしろ、最初から完璧な商品マスターを作ろうとすると、現場の負担が大きくなり、途中で止まりやすくなります。
まずは、仕入件数が多い品目、金額が大きい品目、入力ミスが起きやすい品目から始めます。
対応表には、少なくとも次の項目を入れます。
最初はExcelでも構いません。大事なのは、担当者の頭の中にある変換ルールを、会社で見られる形にすることです。
商品名の整理で失敗しやすいのは、例外を無理に消そうとすることです。市場業務には、取引先別、産地別、ブランド別の例外があります。
例外を禁止するのではなく、なぜ例外にしているのかを残します。「この取引先向けには旧名称を使う」「このブランドは魚種とは別に集計する」「このサイズ帯だけ販売単位が違う」といった理由が残れば、後任者も判断しやすくなります。
市場業務の標準化とはで整理している通り、標準化は現場判断をなくすことではありません。判断が必要な場所と、迷わなくてよい場所を分けることです。
商品名の統一問題に取り組むときは、次の順番で確認すると進めやすくなります。
この順番なら、すべての商品を一度に直さなくても始められます。まずは、よく使う品目、ミスが起きると影響が大きい品目、担当者が限られている品目からで十分です。
市場の商品名が統一されていないこと自体は、現場の弱さではありません。産地、ブランド、状態、サイズ、単位、取引先ごとの呼び方があるからこそ、市場の取引は細かく成り立っています。
ただし、その判断が一人の頭の中だけにあると、在庫も売上分析も引き継ぎも難しくなります。
目指すべきなのは、現場の言葉を消すことではなく、現場の言葉を会社で扱える形にすることです。商品名を分解し、変換辞書を小さく作り、例外の理由を残す。そこから始めるだけでも、商品マスターは使えるものに近づきます。
商品名や単位の変換ルールをどこから整理すべきか迷う場合は、現状の商品マスター、仕入速報、販売時の呼び方を一緒に見ながら、整理する順番を確認できます。お問い合わせから、課題整理としてご相談ください。